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東京地方裁判所 平成6年(ワ)2803号 判決 1995年7月24日

主文

一  原告の各請求を、いずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告株式会社ヨシオカ(以下「被告ヨシオカ」という)は原告に対し、金一一七万九四三〇円及びこれに対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社西村商店(以下「被告西村商店」という)は原告に対し、金六四万〇〇三二円及びこれに対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告有限会社池田呉服店(以下「被告池田呉服店」という)は原告に対し、金二一万四〇一四円及びこれに対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告有限会社石和酒店(以下「被告石和酒店」という)は原告に対し、金一六万九七三〇円及びこれに対する平成四年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  仮執行宣言。

第二  事案の概要

本件は、中小企業等事業協同組合法(以下、単に「法」ということもある)に基づいて設立された事業協同組合である原告が、その組合員(被告西村商店及び被告石和酒店は、現在は原告を脱退している)である被告らに対して、平成四年一月一三日に開催された臨時総会において決議された賦課金の支払いを求めた事案である。

一  争いのない事実等(一部、証拠によって認定した事実は、適宜その証拠を掲記する。)

1 当事者

(一) 原告

原告は、中小企業等事業協同組合法に基づいて昭和二八年一二月二五日に設立された事業協同組合であって、国電五反田駅周辺の商店街を構成する商店を組合員として結成されたものである(原告と被告ヨシオカ及び被告西村商店との間では、争いがない。)。

(二) 被告ら

被告ヨシオカ及び被告池田呉服店は、現に原告の組合員であり、被告西村商店及び被告石和酒店は、平成五年三月をもって、原告を脱退した元組合員である(原告と被告池田呉服店以外の被告との間では、争いがない。)。

2 原告の事業の推移

(一) 原告の主たる業務は、組合員に対する資金貸付及び組合員の売上増進を目的とした買物用チケットの発行及び集金事業であった。

原告の収入は、右チケット事業における手数料収入が中心であったが、昭和三九年五月一八日には、原告の出資によって、貸金業を目的とする五反田共栄信用株式会社(以下「五反田共栄」という)が設立され、五反田共栄が、原告からの融資を他に貸し付けて得られた利息の収入が、原告の収入の中心を占めるようになった(原告と被告ヨシオカ及び被告西村商店との間では争いがない。)。

(二) 原告は、五反田共栄の大口の貸付先であるサンクレジット株式会社(以下「サンクレジット」という)に対する貸付資金を、城南信用金庫から借り入れて、五反田共栄に融資していたが(員外貸付)、右の五反田共栄を通じたサンクレジットの貸付金の回収見込みが悪化し、平成三年五月ころには、城南信用金庫から借り入れていた金三四〇〇万円の利息支払いも困難な状況となったため、これを打開するため、平成三年五月以降、次のとおり原告の総会が開催された。

3 原告の臨時総会決議

(一) 平成三年五月九日の臨時総会

右臨時総会においては、別紙1記載のとおり、金融機関からの借入金返済のために、<1>原告と組合員との金銭消費貸借契約を承認する件と、<2>組合員からの借入金の返済方法を決定する件が、満場一致で可決された。

なお、被告ヨシオカの代表者の父は、右臨時総会に出席しており、その余の被告らは、右臨時総会に欠席したが、右被告らの代表者名義の署名・押印がなされている「原告の臨時総会に於ける一切の件」についての白紙委任状が提出されている。

(二) 平成三年一二月一八日の臨時総会

その後、サンクレジットに対する五反田共栄の貸付金回収が事実上、不可能となったため、平成三年一二月一八日、原告の臨時総会が開催され、<1> 原告の債務の各組合員への転化割当額決定と各組合員によるその債務負担実行の件、<2> 組合員からの借入金の返済方法を決定する件について、審理がなされたが、採決については時期尚早との声があって、継続審議をすることとなった。

(三) 平成四年一月一三日の臨時総会

継続審議がなされた原告の右臨時総会において、別紙2記載の債務負担案に基づき、丹羽専務理事が議案を説明し、審理の結果、結局、別紙3記載のとおり、前記の<1> 原告の債務の各組合員への転化割当額決定と各組合員によるその債務負担実行の件及び<2> 組合員からの借入金の返済方法を決定する件を多数決により可決した(以下、これを「本件賦課金決議」という)。

各組合員が負担する賦課金の基準については、原告の理事会の提案にかかる「均等負担分を六パーセント、役員負担分を四五・五パーセント、出資割合と過去の売上割合を加味した負担分を四八・五パーセント」とすることとされたが、右の賦課基準に基づく被告らの負担額は、被告ヨシオカが金一一七万九四二〇円、被告西村商店が金六四万〇〇三二円、被告池田呉服店が金二一万四〇一四円及び被告石和酒店が金一六万九七三〇円となる(以下、右の被告らの負担額を「本件賦課金」という)。

二  原告の主張

1 被告らは、原告の総会決議に基づく本件賦課金の請求を拒む理由として、事業協同組合の組合員は、<1>「有限責任」であること(法一〇条五項)又は<2>違法な五反田共栄に対する融資に基づく組合の借入金の分担は「経費」に該当しない旨を主張する。

しかし、<1>の点については、元来、事業協同組合は株式会社のような本来の有限責任が貫徹されているものではないし、対内的には、事業に必要な経費は組合員で分担することとされているように、組合員は、当初の拠出金ですべてが免責されることはない。

本件は、第三者から組合債務の履行を求められているものではなく、組合の債務を内部的にどう処理するかの問題であって、被告らの主張は失当であるし、また、<2>の点についても、被告らの主張する「経費」の定義は、狭きにすぎ、後述の原告の組合運営の実情からすれば、被告らに拠出を求めている金員は、経費といってよい。

そして、本件賦課金は、原告の組合員有志からの借入金を弁済するための原資となるものであり、組合員有志からの借入を決定し、その返済は組合員の拠出金によるとの予めの総会決議(平成三年五月九日)には、被告らも賛成したものであるから、禁反言、信頼の原則からしても、被告らは総会の意思決定である本件賦課金決議を否定することはできない。

2 本件賦課金決議の背景には、原告からの融資を受けて、五反田共栄が行った株式会社サンクレジットに対する大口融資が回収不能になったことが存在するところ、原告の五反田共栄に対する貸付は、いわゆる員外貸付の枠を超えていたのは事実であるが、これらの貸付は秘密裏に行われていたものではなく(組合員五〇名程度の小さな地域の小規模な組合である原告においては、日常的に情報は開示されていた)、定期総会で報告される原告の決算報告書に記載されており、更に、五反田共栄の外部に対する手形貸付額も、併せて報告される右の決算報告書に明らかにしてあった。

また、五反田共栄に対する貸付による利益は、被告らを含む全組合員に公平に還元されていたものであり、同時に組合員の年間経費の軽減に大きく役立っていた。

そして、五反田共栄を通じての小口融資事業、その後の大口融資事業は、原告の本来のチケット事業の業績が後退していくなかで、組合員の経費負担の減少を目的としてなされた事業であり、最終的にサンクレジットに対する大口融資の回収が功を奏しなかったという点で、右貸付に関与した理事ら(五反田共栄の代表取締役は、原告の専務理事の丹羽康之であり、その他同社の取締役は、原告の理事が就任している)の運営は満点とは言えないが、総合的に組合の運営を評価すれば、今回の組合員の負担分を上回る利益還元がなされたものであり、理事らの組合活動が無償でなされ、お手盛り等の措置もとられておらず、被告ら以外の多くの組合員は、右一連の事実を認め、本件賦課金の負担については多少の不満も持ちながらもその負担に応じているものである。

3 被告らのように、組合運営の利益だけは受け取っていながら、不利益は承認せず、今になって、原告の一部事業ないし運営について無効を主張し、他の組合員が負担した賦課金の支払いを拒絶することは、信義誠実、公平の原則に悖るのであって、被告らが本件賦課金の支払いを拒むことはできない。

三  被告ヨシオカ及び西村商店の主張

本件賦課金決議は、次のいずれの事情に照らしても無効であって、被告らが原告の請求に応ずべき義務はない。

1 本件賦課金決議は、総会の権限外の行為であって、もともと無効である。

すなわち、本件賦課金決議は、原告が本来、目的の範囲外である金融を目的とする株式会社(五反田共栄)への出資、融資の結果生じた損失の分担のための決議であって、無効である。

2 更に、本件賦課金決議は、法一〇条五項が定める「組合員の責任は、その出資額を限度とする。」との規定に反して無効である。

組合員は、組合の債権者に対して直接、責任を負わない上、組合に対する責任についても、出資額の限度にとどまるものである。

3 平成四年一月一三日の本件賦課金決議は、法五一条で定められた総会の決議事項のいずれにも該当しない。

すなわち、法一二条にいう経費とは、非経済事業(例えば、教育、情報提供事業)団体協約の締結又は一般管理に必要な費用である。本件賦課金は、原告の五反田共栄に対する違法な員外貸付による融資金の未回収分の補填のために必要となったものであり、右貸付の際には、もとより総会の決議はなされていないし、貸付後の総会においても、五反田共栄に対する貸付残高を記載した決算報告書による報告のみで、具体的な報告(例えば、サンクレジットに対して利息制限法に反する高利で多額の貸付をなし、第一順位であった担保を後に後順位に繰り下げたこと等)は一切なかったものである。

かかる本件賦課金を、原告の経費(法一二条)ということはできない。

4 原告は、平成三年五月九日の総会において、被告らが拠出金を支払うことに賛成した旨を主張するが、右総会の決議においては、「後に総会を開催して拠出方法を協議しよう。」という抽象的な方針が審議されたのみで、被告らが具体的な賦課金の支払いを約束したものではないし、被告西村商店の代表者は、白紙委任状を提出しただけで、総会には出席していないし、右委任状も代表者が承知しないで提出されたものである。

そして、城南信用金庫に対する原告の借入金の返済を行うため、原告に対してその資金を無利息で貸し付けた組合員有志(原告の役員がそのほとんどである)の大部分は、右金庫からの原告の借入について、連帯保証していたものであって、単なる好意から原告に対して貸付をしたものではない。

5 結局、原告の役員らは、組合の目的外であって違法な員外貸付の実行のために、定款の変更はもとよりなさず、総会の承認を得ることもなく城南信用金庫から原告名義の借入を行ったうえで、右借入金の連帯保証人となり、実質的に、その連帯保証債務を履行したものにすぎず、かかる原告の役員らが、「有限責任」が支配する被告ら組合員にその責任を転嫁できるはずはない。

四  被告西村商店の主張

仮に、原告の請求に理由があるとしても、被告は原告に対して金一〇〇万円を出資しており、平成五年三月、原告を脱退しているのであるから右持分の返還請求権を有するところ、これと原告の本訴請求権を対当額にて相殺する。

五  被告石和酒店の主張

事業協同組合の責任は、その出資額を限度としており、総会の多数決による議決をもって一方的に組合員の責任を拡大することはできない。

第三  当裁判所の判断

一  前記の争いのない事実等に加えて、《証拠略》を総合すれば、本件賦課金決議に至った経過等について、次の事実を認定することができる。

1 原告は、五反田駅周辺の衣料品小売店が中心となって、昭和二八年一二月二五日に設立された事業協同組合であるところ、その主たる業務は、組合員に対する資金貸付及び組合員の売上増進を目的とした買物用チケット(組合員の店舗で、一般顧客が現金を持たずに買物ができるチケットで、顧客がこれを利用して買物をした場合には、原告から組合員に代金の立替払いがなされる。)の発行及び集金事業であった。

原告の設立当初は、右チケット事業も順調で、右チケット事業における手数料収入が原告の収入の中心であったが、昭和三七年ころから、チケットの売上は下降し、原告の組合員の売上も鈍化傾向が目立つようになった。

2 そこで、原告の当時の理事者らが中心となって検討の結果、原告とは別の組織の会社を設立して消費者金融を行うこととなり、昭和三九年五月一八日には、原告の出資によって、貸金業を目的とする五反田共栄が設立されたが、右会社(五反田共栄)の設立のための出資については、原告の総会の決議はなされなかった。

その後、徐々に、五反田共栄が、原告からの融資を他に貸し付けて得られた小口の消費者金融の利息が、原告の収入の中心を占めるようになった。

3 そして、昭和四六年ころから、原告が城南信用金庫から借り入れた資金を用いて、五反田共栄は、次の三件の大口融資を行うようになったが、これらの各融資(員外貸付であることは明らかである)についても、原告の総会決議を得ることもなかった。

(一) 昭和四六年ころから昭和五五年有限会社越後屋へ、期末貸付残高で最高金三四八六万円の貸付

(二) 昭和四七年ころから平成元年ころまで大成地所株式会社へ最高時で金三〇六〇万円の貸付

(三) サンクレジットへ昭和四九年一二月一三日から、最高時で金六〇〇〇万円の貸付

右の大口融資による五反田共栄の利息収入は、莫大なものとなり、これらは原告へも還元され、原告の右会社に対する貸付利息として収支予算書の「収入の部」に貸付利息として計上されて、収益の一部は、被告らを含む組合員の配当に供され、賦課軽減にも寄与していたものであるところ、これらの大口融資による貸付利息収入は、定期総会で報告される原告の決算報告書に記載されていたものである。

4 しかし、昭和六三年五月ころから、サンクレジットの経営状況が悪化し、同社に対する五反田共栄の貸付金の元利金の回収が困難となり(五反田共栄は、同社に対する融資金の回収時期を誤り、また、昭和六二年には、五反田共栄は、右融資金担保のために得ていた一番順位の根抵当権について、債務者であるサンクレジットからの要請により四番へ順位変更に応じたりしたこともあった。)、続いて、原告が資金的にも窮してきたため、城南信用金庫からの借入金三四〇〇万円の利息支払いも困難となった。

5 このため、平成三年五月九日に、議題を「原告と組合員との間の金銭消費貸借を承認する件」、「組合員からの借入金の返済方法を決定する件」とする臨時総会が開催されたが、これに先だって、平成三年四月二七日付で、臨時総会への提出議案についての説明文書を配布した。

平成三年五月九日の臨時総会には、組合員四八名のうち、四五名(本人出席一七名、委任状出席二八名)が出席し、別紙1記載のとおりの議事がなされ、各議案については全員一致で可決されたところ、右総会に被告ヨシオカの代表者の父である松井寿春は出席し、他の被告らについては、右被告らの代表者名義の署名・押印がなされている「原告の臨時総会に於ける一切の件」についての白紙委任状が提出されている。

6 そして、原告は、右の総会決議に基づいて、組合員有志一一名から合計金二六九〇万円(このうち、原告の代表者古沢理事長、市川栄一理事、原告の専務理事丹羽康之が代表者である株式会社地球堂靴店及び原告の理事木目田純が代表者である有限会社トラヤ帽子店の四名が各金五〇〇万円の大口の貸付をなした。)の借入を行ったうえ、これに原告の手持資金(定期預金)を加えて、城南信用金庫に対して、平成三年五月一四日から平成三年七月二六日までに、金二八八〇万円を弁済し、更に、その後、平成四年一月三一日に金一二〇万円、平成四年五月六日に金四〇〇万円を弁済し、その借入金債務を完済した。

なお、城南信用金庫に対する原告の借入金債務については、原告の代表者、専務理事及び常務理事は、個人で連帯保証していたものである。

7 平成三年九月に、東京地方裁判所民事第二一部(執行部)において、サンクレジットの担保物件の最低売却価額が決定されたところ、右価額に基づく競売では、原告の先順位に登記されている抵当権の被担保債権合計金二億五〇〇〇万円が存在するため、原告に配当がなされる見込みがほとんど望めない状況となり、原告は、組合員に対して、平成三年九月二一日「五反田共栄の担保物件に対する、裁判所による、最低売却価額と競売入札実施の決定について」との文書を配布し、また、第一回の競売期日に入札者がいなかった状況を踏まえて、平成三年一二月一八日、原告の臨時総会が開催された。

右臨時総会の案件は、<1> 原告の債務の各組合員への転化割当額決定と各組合員によるその債務負担実行の件及び<2> 組合員からの借入金の返済方法を決定する件(右臨時総会の直前の原告の負債額は、組合員有志からの借入金二六九〇万円と、城南信用金庫の残債務金五二〇万円の合計金三二一〇万円であり、これにその後の組合運営費として必要な金一九〇万円を加えた金三四〇〇万円を組合員に対する賦課金とする案を、理事会は総会に提出したものである)であり、これについて審理がなされたが、採決については時期尚早との声があって、継続審議をすることとなり、結局、平成四年一月一三日の臨時総会において、別紙2の債務負担案に従った本件賦課金決議が多数決で可決された(別紙3参照)。

二  以下、右の事実に基づいて検討する。

1 中小企業等協同組合法は、「組合は、定款の定めるところにより、組合員に経費を賦課することができる。」(法一二条一項)と規定し、「経費の分担に関する規定」を定款の必要的記載事項とし(法三三条一項八号)、経費の賦課及び徴収の方法は、総会の決議事項(法五一条一項四号)と定めている。

本来、経費の賦課そのものは、団体を構成しこれを運営する以上、法の規定はもちろん定款、規約等の定めがなくとも、総会の決議により徴収できることは当然であるといいうるが、組合の場合に、経費を随時、多額に徴収することは、組合員の有限責任(法一〇条二項)を破壊するおそれがあり、したがって、経費の分担に関する規定を定款の絶対的記載事項として、定款の定めるところによってのみ経費を賦課しうるとし、定款では、その分担に関する基本事項、例えば、分担させるか否か、最高額をいくらにするか等について記載すれば足り、総会において、経費の賦課及び徴収の方法について、具体的に定めるものとするとしたのが法の趣旨と解される。

2 原告の定款には、「組合員に経費を賦課することができる。その経費の賦課額、徴収の時期及び方法等については、総会で定める」との抽象的な記載がなされているところ、原告は、本件賦課金は、法一二条に定められた「経費」であることを前提として、原告が組合員である被告らに対して、平成四年一月一三日の臨時総会でなされた本件賦課金決議に基づいて、本件賦課金の支払請求をしているものである。

3 ところで、法一二条にいう経費とは、非経済事業(例えば、教育、情報提供事業)、団体協約の締結又は一般管理に必要な費用であると解されるところ、本件賦課金は、原告の五反田共栄に対する違法な員外貸付による融資金(サンクレジットに対する大口融資分)の未回収分の補填のために必要となったものであること(また、原告から五反田共栄に対する右貸付の際には、総会の決議もなされていない。)は、前記認定のとおりであって、これを法一二条にいう「経費」ということはできない。

更に、前記認定に照らすと、本件賦課金決議は、原告が本来、目的の範囲外である金融を目的とする株式会社(五反田共栄)への出資、融資の結果生じた損失を、組合員が実質的に負担することを強制するものであるところ、これは、法一〇条五項が定める組合に対する責任についても出資額を限度とする旨の規定(「組合員の責任は、その出資額を限度とする。」)に反することになるから、本件賦課金決議は、無効であるといわざるを得ない。

三  次に、原告は、被告らは、本件賦課金決議に先立って、組合員有志からの借入を決定し、その返済は組合員の拠出金によるとの総会決議(平成三年五月九日)には賛成したものであるから、被告らは禁反言、信頼の原則からしても、総会の意思決定である本件賦課金決議を否定することはできないとか、従前、被告らは、五反田共栄の貸金業による利益を享受していたものでありながら、その不利益は承認せず、今になって、原告の一部事業ないし運営について無効を主張し、他の組合員が負担した賦課金の支払いを拒絶することは、信義誠実、公平の原則に悖るものである等と縷々主張する。

しかしながら、平成三年四月二七日の臨時総会の欠席者の委任状の作成経緯については争いがあるうえ、右総会の議案は、別紙1記載のとおり組合員からの借入の承認とともに、右借入金の返済は、「五反田共栄の担保物件の任意売却または競売により貸付金の返却があった時には、当然、その金員をこの借入金の返済に宛てるが、返却された金員が少なくて借入金を完済できないときは、総会を開いて組合員からの拠出方法を協議し、その拠出金により返済する案」であって、後に組合員有志からの借入金の返済について、サンクレジットからの担保物件等による回収が不可能となったときは、「総会を開催して、更に、拠出方法を協議する。」といった抽象的な方針が審議されたのみで、具体的な賦課金の支払いまでも、組合員が約束したものではないというべきであるから、右の議案に、被告ら全員が賛成していたとしても、これをもって、本件賦課金の支払いに応じない被告らについて、禁反言違反とか信義則違反ということはできない。

そして、なるほど、原告は、実質的に、五反田共栄を介しての金融業により、利益を得てきたこと、その利益は被告らを含む組合員に還元されていたことは、前記認定のとおりであるが、本来、無効である本件賦課金決議が、右の事情によって有効となるものではないし、信義誠実、公平の原則が直ちに、違法な員外貸付の結果生じた原告の損失を補填する本件賦課金の支払いを、これに反対する被告らに強制する根拠ということも困難である。

すなわち、右の事情は、各組合員が、原告の城南信用金庫からの借入金の返済資金を実質的に負担することを個別に了解して任意に実行することの動機には十分なりうると考えられるし、また、本件総会決議に従って賦課金を現実に負担した他の組合員らの被告らに対する不公平感は、理解できないものではないが、右の事情が、原告の目的の範囲外であり、かつ、総会決議も経ていない五反田共栄に対する違法な大規模融資(五反田共栄が、サンクレジットに対する大口融資のために必要な資金の貸付)の結果、生じた原告の損失を、法が定める有限責任の原則に反し、出資金の負担を超えて、組合員に強制的に負担させる根拠にはなり得ないし、かかる本件賦課金の支払請求を拒むことが、信義則に反するとか、公平の原則に悖るとまでいうことは困難である。

四  結論

以上の次第で、原告の本件賦課金を求める各請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石 哲)

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